10月の歯科医師ブログ、今回は銀歯(詰め物)の下で進行する二次齲蝕について、原因と対策を歯科医師の視点から分かりやすく解説します。
二次齲蝕とは、一度治療して詰め物や被せ物をした歯の、補綴物の下や境目から再び虫歯になることです。
見た目では気づきにくく、痛みが出る頃にはかなり進行しているケースも少なくありません。
実はこの銀歯の下で起こる虫歯の再発は、防ぐことが非常に困難です。
では、なぜ銀歯の下で虫歯が再発しやすいのでしょうか?
その主な原因と、再発を防ぐための対策について、最新の知見や論文エビデンスも交えて考えてみましょう。
銀歯の下で二次齲蝕が起こる主な原因
二次齲蝕が起こる背景には、銀歯(主に保険診療で使われる金属インレーやクラウン)の構造的・材料的な限界があります。
主な原因を挙げてみましょう。
適合性・接着性の限界
銀歯の詰め物は、歯型を採って石膏模型を作製し、ワックスで成形した後に金属を鋳造するという複数工程で「型」を作ります。
そのため、どうしても歯との適合にわずかなズレが生じます。
また銀歯の装着には、従来型の保険治療で用いられるセメント(リン酸亜鉛セメント等)での合着が多く、セラミックのように歯と化学結合する強力な接着ではありません。
時間とともにこのセメントが劣化・溶解すると、詰め物と歯の間に隙間が生じて細菌が侵入しやすくなります。
実際、詰め物と歯の境目から細菌や唾液が染み込むマイクロリーケージは補綴治療の長年の課題で、二次齲蝕や歯髄炎の原因になり得ると報告されています。
要するに、銀歯は完全な密閉性を得にくく、経年で接着力が低下すれば二次齲蝕のリスクが高まるのです。
隙間・マイクロリーケージ
銀歯と歯の境目には、熱い・冷たい飲食による温度変化で微小な隙間(マイクロギャップ)が生じます。
金属は天然歯組織より熱膨張・収縮が大きいため、境界で微妙な動きが繰り返され、わずかな隙間が発生します。
その隙間から唾液や細菌が侵入し、詰め物の下で虫歯が再発・進行してしまいます。
いったん内部に細菌が入り込むと、歯ブラシは届かず発見が遅れがちです。
境界の微少漏洩(マイクロリーケージ)は、二次齲蝕の主要因とされています。
歯と金属の硬さの違い
銀歯の金属は、天然歯より硬く・摩耗しにくい性質があります。
一方、エナメル質や象牙質は咬合や清掃で少しずつ摩耗します。
結果として段差が生じたり、歯との境界に応力が集中してマイクロクラック(微小なヒビ)が入ることも報告されています。
材質の硬さ・弾性の差が長期的に境目の劣化につながり、隙間が拡大して虫歯菌が入り込む原因になり得るのです。
清掃の難しさ・プラークの蓄積
銀歯表面はセラミックに比べプラーク(歯垢)が付着しやすい傾向があります。
さらに銀歯と歯の間に段差やわずかな隙間があると、歯ブラシが届きにくいため磨き残しが起きやすくなります。
取り切れなかったプラーク中で細菌が繁殖し、酸によって歯との境界を徐々に溶かし、二次齲蝕が進行します。
銀歯周辺は形態が複雑になりやすく、丁寧に磨いても完全除去は難しいため「細菌の温床」になりがちです。
こうした理由により、保険治療で使用される銀歯は材料特性と経年変化によって二次齲蝕のリスクが高まりやすいのです。
また、二次齲蝕は初期に自覚症状が少なく、従来のレントゲンでも金属がX線を遮蔽するため発見が難しいことがあります。
そのため「気付いた時には神経近くまで進行していた」というケースも少なくありません。
事実、二次齲蝕は詰め物・被せ物の再治療理由で最も多い原因であり、一度治療した歯を長持ちさせる上で大きな課題です。

セメントが劣化しており黒く変色も見られます。
今回は隙間が黒くなってましたが外から気づけない典型例です。
二次齲蝕を防ぐための対策
銀歯の下で虫歯を再発させないためには、早期発見と予防ケアが重要です。
また、材料選択や治療法の工夫でリスクを減らすことも可能です。
以下に具体策を挙げます。
毎日の丁寧なセルフケア
虫歯予防の基本はプラークコントロールです。
特に銀歯と歯の境目は磨き残しが起きやすいため、歯ブラシに加えてデンタルフロス・歯間ブラシを使い、隙間の汚れまでしっかり清掃しましょう。
銀歯の周囲を意識的に丁寧に磨くことで、再発リスクを下げられます。
定期的な歯科検診
二次齲蝕は自己発見が難しいため、プロによる定期チェックが欠かせません。
定期検診では、銀歯と歯の境目を詳細に観察し、小さな隙間や虫歯兆候を早期に見つけます。
必要に応じレントゲン等の精密検査を行えば、肉眼では見えない銀歯下の異変も早期把握できます。
症状がなくても3ヶ月~半年に一度の検診をおすすめします。
詰め物・被せ物の交換時期の見極め
銀歯は経年劣化や適合不良が起きるため、状態によっては早めの交換が望ましい場合があります。
特に境目の隙間・黒ずみは要注意です。
「昔治療した銀歯が浮いてきた」「境目が黒く見える」などの変化に気付いたら、放置せず歯科医院へ相談しましょう。
早めのやり替えで二次齲蝕の進行を未然に防ぐことができます。
材料選択の見直し(セラミックなどへの置換)
二次齲蝕のリスクは修復材料の種類によっても異なります。
保険の銀歯(金銀パラジウム合金)は経済的で強度も高い一方、上記の通り再発リスクが高いと言えます。
一方、セラミック修復は見た目が美しいだけでなく、歯と一体化するように強力接着でき、熱膨張率が歯に近いため隙間が生じにくい素材です。
表面が滑沢でプラークも付着しにくい利点もあります。
適合精度の高いセラミックへの置き換えは二次齲蝕予防に有効とされ、当院でも症例に応じて精密なセラミック治療をご提案しています。
金属の詰め物をセラミックに変えることで、「隙間からの虫歯」再発の可能性を低減できるでしょう。

初めからセラミックを選択する事も検討していただきたいです。
まとめ
銀歯の下で起こる二次齲蝕は、一度治療した歯に再び虫歯が発生するという、非常に厄介で発見が難しい問題です。
銀歯は材料特性上、どうしても境界に隙間が生じやすく、接着力の限界や熱膨張の違いから時間経過とともに劣化が進み、定期検診を受けていても進行することがあります。

そこで重要なのが、最初の治療時の材料・方法選択です。
近年では、歯と強固に接着できるレジンセメントを用いたセラミック修復が、二次齲蝕の発生リスクを大きく減らすことが複数の研究で示されています。
セラミックは審美性だけでなく適合性・接着性に優れ、表面の滑沢性によってプラークも付着しにくい特徴があります。
確かに、セラミック治療は保険適用外のため初期費用が高くなりがちです。
しかし再治療頻度や歯のダメージを抑えられる可能性が高く、長期的にはコストパフォーマンスに優れた選択と言えるでしょう。
繰り返し削られていくうちに歯の寿命が短くなるリスクを考えると、最初から精密な治療と良質な材料を選ぶことが歯の保存につながります。
りお歯科クリニックでは、こうしたリスクも含めて患者様に分かりやすく説明し、最適な選択ができるようサポートいたします。
治療済みの銀歯が気になる方、再発を防ぎたい方は、ぜひ一度ご相談ください。歯を大切に守る治療を、私たちと一緒に選んでいきましょう。









